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【かんとくの独り言(第8回)】 「調和」の大切さについて

人間は、痛い思いをする、辛い思いをすると、私は不幸だと思いがちです。しかし、痛く、辛い思いをして初めて身に沁みて分かることがあります。そういう意味では、不幸だと思う経験は実は大変ありがたいことであり、本人の将来にとっては幸運だったということがあると思います。

古人は、これを「人間万事塞翁が馬」と言いました。

自分の目の前に起こる事象を、このように考えられる人間が成長する、伸びるのだと思います。

ヴィクサーレジュニアユースが、「インターシティカップ」から戻ってきました。試合結果だけをみれば、負け続けた大会でしたが、帯同した久場コーチからは、チームの変化についての報告がありました。

その中に、『能力のある人間というのは、実は表面的な技量の問題ではないことに気づかされた』とありました。指導者として試合の結果が出てないことは辛いことだと思いますが、その中で身に沁みて感じたことには、真理が含まれていると思います。

私はヴィクサーレの指導で、これまで何度も言ってきたことがあります。それは、『サッカー選手がサッカーをするのではなく、人間がサッカーをするのだ』ということです。そのために、人間力を向上させてほしい。そうスタッフにお願いしてきました。

久場コーチが、この大会の苦しみの中で、自分の目の前のことを前向きに捉え、指導者として重要な理解を深めたことは、とても貴重なことだと思います。彼の成長を感じます。

久場コーチが気づいたことを具体的に説明します。

人にはいろいろなタイプがいます。常に言い訳を準備し、何か問題があると自分は悪くないというタイプの人間がいます。こういう人間は、相手を尊重することではなく、相手を非難することから思考をスタートさせます。お釈迦様は、このような人間に対して「縁なき衆生は度し難し」と表現してため息をつきました。

素直な心、謙虚な心、反省の心がない人は、お釈迦様から見ても「度し難く」、その人間の持っているものを輝かせることはできないということです。

サッカーはチームスポーツです。チームや組織にとって大事な「調和」というものを学ばせてくれる場所です。ところが、「調和」を欠く行動が時々起ります。選手がチームに所属しているということを忘れて、あるいは無視して行動すれば、お釈迦様ではありませんが、組織の方もさじを投げるしかなくなるのです。

簡単な例を挙げれば、チームに何の連絡もなく練習を休むということだけでも、「調和」から外れているということです。それに気がつかない人間には、サッカーというスポーツも、組織も「調和」を要求しなくなります。

エゴが優先し、チームや組織という感覚のない選手は、長い目で見れば皆自滅していきます。プレーだけでなく、日常生活でも孤立し、やがて誰のサポートも得られなくなってグラウンドを去っていく光景を、私は何度も見てきました。一時的に輝いても、お釈迦さまに愛されていないのですから、輝きが長続きすることはありません。

では、どうしたらそれとは逆の道を歩めるのか。個性を輝かせるにはどうしたらいいのかということです。それは、他人のために、組織のために、社会のために、自己の時間とエネルギーをできるだけ多く使うことです。

8月10日から3日間、東京駒沢競技場体育館で、フットサルのバーモントカップ全国大会が行われました。参加したヴィクサーレの子供たちは、とても集中したいいゲームをしたと思います。その間、子供たちの試合環境を作ってくれた保護者のサポートは実に素晴らしいものでした。

自分の子供のことに一生懸命になるのは、どの親も当たり前ですが、分け隔てなく、試合の出番が多い子、少ない子すべてに気を配る姿には、とても清々しい気持ちにさせられました。エゴのないところには、良い空気が漂うものだと実感しました。

プレーに関しても、サッカーでは、「流れ」とか「リズム」を大切にしないとプレーは上手くいきません。この「流れ」や「リズム」を作るために、「チームが必要としていること」「ゲームが必要としていること」をするという感覚を磨かなくてはなりません。

つまり個人という「部分」ではなく、チームや組織という「全体」を意識して行動することが大切だということです。

それを、考えてやる段階から、無意識に感じてやれる段階にまで引き上げることです。考えて全体の「流れ」や「リズム」を作るのではなく、「流れ」や「リズム」を感じながらプレーする事です。そのためには、相手の立場に立ち、相手を尊重するということ、つまり「全体」と一体になっている感覚を養う必要があります。

女子ナビィータユースの中学2年生に安里美音(みおん)というMFがいます。美音のプレーは、いつ見ても試合の流れを切らないものです。その場、その場で試合が求めているプレーを選択しています。感覚的に全体を捉えているから、ボールが渡った時にそこで無理がありません。ボールを動かし、さらに自分が動く。リズムができます。これは、彼女自身に内在する能力のなせる技であり、指導者が教えたものではありません。

他人のカバーを率先してやる。選手や集団の中で垣根を作らない。つまり、自分だけが良ければというエゴがないことが、彼女の一番の能力ではないかと見ています。もちろん、ヴィクサーレには美音と同じような子どもたちが沢山いるので、その子供たちの素直さを共に育んでいきたいと思います。

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