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【かんとくの独り言(第5回)】

クラブと「道(みち)」について

今でこそ日本にはスポーツをするために沢山のクラブが存在しているが、自分が大学生だった1970年代後半には、学生がスポーツをするところと言えばほとんどが学校だった。

その当時サッカーをやっていた人は、部活は知っていても、クラブというものを知らなかったと思う。自分のサッカー選手歴も学校を母体したもの。小学生の時は、5年生の時から宮城県塩釜市の小学校を核にしたスポーツ少年団。中学は、同じく塩釜市立の中学校サッカー部。高校は、自宅から電車で通った宮城県立仙台第二高等学校(GKコーチの大友君は同じ高校)サッカー部。大学は、東京に出て早稲田大学サッカー部に在籍した。当たり前だが、進学するたびにチームが変わった。

しかし、大学を出てから自分は「読売サッカークラブ」(現在の「東京ヴェルディ」、Jリーグ開幕時は「ヴェルディ川崎」)というクラブチームに入ることになる。そこでは自分は15年間プレーさせてもらったんだ。

この「読売サッカークラブ」は、サッカー界では「読売クラブ」と呼ばれていた。読売新聞社社主の正力松太郎(しょうりきまつたろう)氏が1969年に立ち上げた地域スポーツクラブだ。職業はバラバラ。プロ扱いの外国人もいれば、高校生もいた。チームは日本のトップを目指していた。

自分は、大学を卒業して早稲田大学の教職に就いていたが、もちろん大学には社会人のチームはない。もし、この「読売クラブ」というものがなかったら、自分は企業に就職して企業スポーツとしてサッカーをするか、大学教員の道へ進んでサッカーを辞めるか、どちらかを選択しなければならなかった。

ところが、幸運なことにサッカー界には「読売クラブ」があった。大学教員とサッカー選手の両立が可能になった。だから「読売クラブ」は、自分のサッカー人生を広げてくれた恩人のようなもの。この時代にクラブスポーツがあったことは自分にとって、とても幸運だったと思っている。

正力さんは凄いね。学校スポーツや企業スポーツが当たり前の時代に、スポーツをやる場は、やがて学校や企業から欧米のように地域に移行する。そう時代の先を読んで、いち早く本格的なクラブスポーツを立ち上げた。そのサッカークラブが、日本のアマチュアからプロになる過渡期に、重要な役割を果たしたんだ。

現在では、クラブでスポーツをやることに違和感を覚える人はいないよね。Jリーグのクラブを筆頭に、スポーツをする場所は、学校からクラブへと急激にシフトしている。もちろん、高校年代では学校スポーツの強化は相変わらず進んでいるが、地域に根ざしたクラブスポーツが日本のスポーツを支える時代になったことは確かだ。

2005年に設立した「ヴィクサーレ」は、沖縄においてはクラブスポーツの先駆者的存在だ。当時の沖縄では、クラブスポーツは珍しかった。ヴィクサーレでは、小学生や中学生が、学校という垣根を越えて集まり一緒にサッカーをする。選手にとっては、家庭、学校という空間に、三つ目の空間が生まれた。クラブでは、家庭や学校以外の新しい人間関係が作られる。自分は、そこに素晴らしい学びがあると思っている。

日本には、柔道、剣道、合氣道など、スポーツの種目に「道(みち)」という言葉がついているスポーツがある。「道」という言葉には、スポーツを楽しむだけでなく、長い時間をかけて仲間と切磋琢磨し、自分の心・技・体を磨いていくという人格形成の意味合いが含まれている。

ヴィクサーレというクラブも、同じように「道」だと考えてほしい。まず、我々は武道と同じように人間形成に力を注いでいる。スポーツを楽しむことは重要だが、その活動を通じて、集団の規律や仲間との協調性、忍耐力、意志力を鍛える。そこを大事にしたいんだ。

このクラブが「道」だというもう一つの理由は、長期的視点に立って一貫指導を行っている点にある。学校スポーツでは、小学校、中学校、高校と進学するたびに、道は途切れてしまう。しかし、クラブでは「道」は繋がっている。

「道」の中では、ボールの持ち運びやゴールの移動、グラウンド整備や掃除にも意味がある。学習塾のようなところでは、掃除や後片付けはやらないかもしれない。月謝を払っているのだから、そんなことはしなくていいという人もいる。しかし、ヴィクサーレでは、やるべきことはちゃんとやってもらう。

「道」と考えれば、人生に無駄なことはないからだ。

【了】

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