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【かんとくの独り言(第4回)】

『渋滞(じゅうたい)学』に学ぶ

東京大学に『渋滞学』を研究されている西成活裕(にしなりかつひろ)という先生がおられる。渋滞というとほとんどの人が車の渋滞のことを思い浮かべるが、西成先生は、製品の売れ残りや部署間のコミュニケーション不足の問題なども、組織における一種の渋滞と捉えて研究されている。

渋滞という言葉を使っているが、簡単に言えば渋滞とは様々な問題ということだ。

なぜ渋滞(問題)が起きるのか。『渋滞学』からみると『長期的視点(長い目でみること)』の欠如が根本原因だという。もう少し余裕を持って考えればいいところを、結果を急ぎするために、かえって問題を引き起こしてしまうということだ。何か思い当たることはないかな。

例えば、高速道路で車が多い時、「追い越し車線を走る方が早いだろう」と多くの運転手が考える。ところが、皆が「早く行きたい」と思って車線変更することで、逆に追い越し車線が渋滞して、走行車線の方が早く着くというんだ。

ヴィクサーレでは、『Football is a school of Life(サッカーは人生の教場である)』といことを設立当初から言ってきた。『渋滞学』を参考にした訳ではないけれど、長期的視点に立って、つまり皆さんを長い目で育てていくことを基本方針にしてきた。

サッカーの日常生活でも渋滞(問題)は起きるね。仲間と喧嘩してしまった。試合のメンバーから外れた。人間関係が上手くいかない。成績や上手下手で優劣をつけられることなど、辛いことや苦しいことは乗越えるたびに次々と出て来る。これはサッカーに限ったことではなく、どんな組織でも、どんな年齢になっても避けられないことだと思う。

そんな時、その出来事を長い目でみることが大事じゃないかな。自分はそう思っている。その時だけを考えれば、嫌なことや辛いことを自分の成長の糧と捉えることは難しいかもしれない。しかし、「艱難(かんなん)汝を玉にす」という諺があるように、長い目でみれば、若い時の苦労が、その後の成長や躍進の原動力になったという話は沢山ある。英語でも「 Adversity makes a man wise.(逆境は人を賢明にする)」という格言がある。

自分もそういう経験をしてきた。あの時は辛かったがそれを我慢して良かったと思うことは多々ある。だからこそ、その瞬間、その場の感情で拙速(せっそく)に判断をしないで、ひと呼吸おいてから決断をするように心がけている。

大会の登録メンバーから外れたら、選手は悔しい思いをするだろうね。しかし、それは本人の成長のために無駄ではない。そう考えて選手に接することを指導者に促してきた。今の辛さ、悔しさを我慢することで、その選手の人間としての根の深さが養われるからだ。

もちろん、違う考え方があってもいい。面白くないこと、嫌なことがあったら、そこにいる必要はない。わざわざ嫌な思いを我慢することはない。そう思って辞めるのも一つの選択だよ。そういう生き方を自分は否定しない。最近は、手っ取り早く上手くなる方法、簡単に上に行く方法を求めて行動する人が多くなったと感じているが、そういう気持ちになることも理解できる。

しかし、基本的には、万人に共通した効率のよい方法などあるはずがないし、若い時には回り道しながら苦労しながら、じっくり構えて身につけるべきことがあるのではないかと思っている。

『渋滞学』では、さらに『部分最適』ではなく、常に社会全体の利益を考える『全体最適』が必要だと強調している。これもヴィクサーレの基本方針に合ったものだ。チームスポーツをする上で、自分を活かすために大事な考え方だと思うよ。

西成教授は、これを、「いまさえよければいい」「ここさえよければいい」「自分さえよければいい」という言葉は自分をダメにする。そう言い換えている。とても分かりやすいね。サッカーだって、リターンパスを受ける時に、まず味方がパスしやすい所にボールを出さなければ、自分のところにいいボールは返ってこない。仲間を大事にすることで自分も生かされる。実にシンプルな原理を教えてくれている。

常に長い目で自分を振り返る。常に全体の調和を考えて行動する。そこに個人の成功の秘訣があるということだ。

【了】

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